台湾で発表された文章『蔡英文完全繼承「精神父親」李登輝的意志 而且走得更遠』
の拙訳です。
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明日は李登輝の97歳の誕生日である。
(本写真は上の記事原文から取得)
蔡英文と陳菊はその誕生日より一日早く李登輝を訪問し、30分ほど足を留めた。李登輝も蔡英文に続投が決まったことに対して祝福した。
様々な蔡英文の写真が公開されているが、そのうち2枚が脳裏から永遠に離れることはないと思われる。そのうちの1枚がこの写真である。いつも冷静な蔡英文が李登輝に寄りかかり、珍しく感情を顕にしている。この笑顔、この喜び、まさに父娘そのものである。ある意味、李登輝と蔡英文は心でつながっている父娘と言っても相違がない。
2018年春、私達は永和区にある総統官邸に蔡英文を訪問した。彼女は小さなリビングに座っていてこう言った。彼女の父蔡潔生と李登輝は古くからの知り合いであり、とある年に父親と一緒に李登輝を訪問した。その時もこのリビングで、この旧友たちは多岐に渡る色々なことをおしゃべりした。彼女は側で静かに話を聞き唯一話した言葉は「お父さん、もう11時よ、そろそろおいとまいたしましょう」だった。
蔡英文は李登輝の時代に育てられた。1984年、蔡英文は28歳。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスを卒業し、父の言うことを聞いて帰台した。国立政治大学で教鞭をとり、法律学者として経済部の顧問を10数年の長きにわたって務め、官僚としての経験を積むとともに、父親の世代の人々との交流をもった。
李登輝は蔭で陳水扁が総統の道へと登っていくのを支え、西暦2000年という時代の区切りに、蔡英文は大陸委員会の主任委員として招かれた。陳水扁は外交業務を敢えて前政権の人材に託したのである。一般的には李登輝がこのように依頼したと考えられている。あるいはこのような言い方が出来るかもしれない――蔡英文は李登輝が民進党へ養女に出したのである、と。
蔡英文が民進党に入党したのは2004年になってからである。大陸委員会の主任から比例区の国会議員へと転身し、政界に足を踏み入れたのは実は非常に非常に遅いタイミングであった。事実、2008年馬英九は彼女を総統選のパートナーとして選びたかったと言っていたと言われるほど、彼女の政治色は目立たないものであった!(John F. Copper 2016年,188頁)
世の流れはまるで変わってしまい、2008年に蔡英文は民進党の主席候補に立候補した。実際のところは民進党のお家事情はかなり落ちぶれていて、どの派閥でもどのグループでも、この状態を切り盛りしたいという人間がいなかったのである。そこでこの腐りかかった家を誰かが連れてきた養女に丸投げしたのである。結果は周知の通り、彼女はこの家業を持ち直すことに成功したのだが、しかしそこは養女の身である。家業を繁栄させたとは言え、大一族の各世帯は彼女のことを軽んじた態度のままであった。2018年に呂秀蓮を訪ねた時、美麗島事件に話が及んだ。呂秀蓮は自分たちが美麗島事件で抗争している時、蔡英文がどこにいたか知らないと少々侮蔑にも似た口調で話した。時折新潮流派の長老たちに教えを請うと、蔡英文は弱い、そして木を見て森を見ずだと言った具合で、これまた蔡英文を軽く見ていた。
民進党のお家事情は、実のところ民視(注:台湾のテレビ局)の郷土劇場ドラマのようなもので、嫡流本家の長男の長男は地位が高く尊大で、本当に高貴なのはどこからか連れて来られた養子あるいは養女の方である。民進党が重用したのは、貧乏な家から苦学して這い上がり医者となった頼清徳(別名「台湾独立派のプリンス」)であった。蔡英文の心の父も、彼女が決断力と勇敢さに欠けるという苦言を口にすることが少なくなく、頼という大切な孫を誉めた。誰もが彼女が失敗することを待ち望み、昨年の党内での予備選では悲惨ないじめに遭ったと言っていい。
あるいは我々はこのように大胆な推測をしてもいいかもしれない。蔡英文は後妻の子供であり、家には10人の兄弟たちがいた。一番の末っ子として可愛がられたとは言え、このような環境で育っていくということは、他人の顔色を伺わなければならないし、品行方正でいなければならない、だからこそ、末っ子の甘えのようなものは全く無く、民進党郷土劇場ドラマで養女の役を演じることも余り難しいことではなかったのかもしれない。
環境が個性をつくり、個性が彼女の運命をつくる。彼女の全てが彼女の個性の中の確固たる忍耐とは、全く無関係ではない。18年に中央社が彼女にインタビューで訪れた時、即問即答集を考え、一番好きな映画の登場人物は誰かを聞いた。彼女は二人選んでもいいかしらと言いながら、「一人は日の名残りのアンソニー・ホプキンス、もう一人はアイス・エイジのシド。」と答えた。アンソニー・ホプキンス!!!人が忍耐出来ないすべてを忍耐しつくし、苦々しい感情をすべて押し殺す執事、かつ優雅でかつ自分自身を堅持している。このことが全てを説明しているではないか。
明確な主張があり、忍耐力がある。このような人物は失敗を恐れない。自嘲気味な韓国瑜を例外として、馬英九、頼清徳、柯文哲、呂秀蓮等のように台湾の政治家たちは大部分がナルシストである。政治家の政治ゲームはパラ拳(注:台湾のお酒を飲んだ時などに行う遊び)やじゃんけんぽんに似ている。彼女だけが碁を打つ。高みから遠くまで見渡し、遠い将来を見据えた厚い碁を打つ。
このような人物は失敗を恐れないものだ。2010年に新北市市長に立候補し朱立倫に敗北を喫し、2012年に総統選にて馬英九に敗北を喫し、そして2018年の民進党の大敗北と屈辱的な失敗を経験している。厚い碁のような長期的な戦略と戦術をもつ人間は一時の失敗を全く恐れない。2012年の敗北に際して彼女が行ったスピーチは、多くの人の共感と感動を呼び、大きな器を感じさせる風格があった。最後に勝利を手にする人物はどうやって負けるかを全く知らないものである。
昨年6月にTVBSの独占インタビューの際に、彼女はこう言っている。
「政治は禍福糾(あざな)えること縄の如し、失敗してから、盲点が浮かび上がってくる、そして却って自信がついてくるものです。もし何もしないで補助金のみを支払う政府であれば、私もそれは出来るし、みなさんが私のことをもっと気に入ってくれます。私は自分が十二分に剛毅果断であるとは言えず、また十二分に勇敢とも言えないことは分かっています。ただ本音を申し上げれば、剛毅果断でなく勇敢でもない総統が、敢えて年金改革に着手するでしょうか。敢えて三年間もの時間を費やして年金改革を実行するでしょうか。そして再度三年の月日を費やして国民はその効果をやっと感じるのです。私はなんのリスクもとっていないといえるでしょうか。総統は勇敢かつ剛毅果断でいなければいけないことに加えて、時には忍辱負重(にんじょくふじゅう)でいなければならないのです。」
彼女は強固な意志力でもって劣勢をひっくり返した。選挙前の最後の金曜日、私は蔡英文の選挙総本部にいた。午後4時頃になり宣伝カー部隊が出征より戻ると、欧米と香港からの視察団がまず本部ビル前に第一列目を詰め込みながら陣取っていた。小さな旗を振るガイドについてウロウロしていたのは、日本人のグループだった。彼らは本部で蔡英文グッズのカップ麺や帽子を買って、スケジュールに従って集合し、バスに乗った。蔡英文が巡幸を終えご帰還になると、優雅な日本人マダムたちは旗を振り、小さな声でキャアキャアと叫び、あたかもタカラジェンヌの降臨を見るかのような様子である。他にも一人のベトナム人留学生がいて、台湾がアジアで初めて同性婚を合法化したことから、彼にとって台湾は羨望の対象であり、わざわざ二週間の時間を費やして見に来たとのことである。声援が行き交う夜、自由広場と国立図書館の間の通りは閉鎖され、多くの香港人たちが何もなくただ時代革命、光復香港(Revolution Now, Free Hong Kong)と叫びつつ、横にいる警察たちを見て、警察がいるけど催涙スプレーはないねとニッコリと笑っていた。
選挙本部のメインカラーは桑の葉と桃をイメージした薄緑色とピンクであり、国旗や国章はない。かといって民進党党旗もなく、数年前に新潮流派の長老が文学青年や芸術青年が国を治めるのかと皮肉を込めて笑った。しかしながら彼女は既に一つの美学を形成し、一つの風格をも形成し、投票前夜には悲壮感もなければ、誰に跪く必要もなく、公明正大に畏れるものなく叫んだ。「平均給与の引き上げ、達成した。減税、やった。長期介護改善、やった。幼児託児所幼稚園の改善、やった。年金改革、やった。国防改革、やった。エネルギー改革、やった。台湾企業の台湾回流投資、やった。社会住宅、やった。同性婚の合法化もやった。経済の構造改革もやった。社会のセーフネット強化、これもやった。民主主義の防衛機制の構築、これもやった。」そして最後に叫んだ。「一国二制度の拒否、2300万の国民のため、これもやった!」
台湾の選挙は国内の一大事でもあり、世界の一大事でもある。小さな島の選挙結果が太平洋地域の情勢を動かし、島内の選挙がホワイトハウスと中南海の国際的な争いになり、両雄相争い、彼女の深謀遠慮と沈着冷静さが結果として、台湾がアメリカ側より史上最大の外交利益を勝ち取ることになったのである。
心の父の意志を完全に継承するばかりか、更なる遠みに達し、養女か嫡孫かあるいは直系か庶子かには構わず、自分が主体となり自分が責任をもち自分自身が答えを得た。(本来ここは紅楼夢第四十回から遡る探春の話であると書こうと思ったが、よく考えると民進党はそんなに優雅でもなければ、曹雪芹の高みに至っているわけもない。せいぜいで汪笨湖(注:台湾の作家、政治評論家)版台湾紅楼夢になるのがオチである。)
台湾の選挙には毎回必ず立志激励の物語がある。陳水扁には貧しい家庭から上流へと這い上がっていく物語があった。韓国瑜には中年で失業した負け犬が逆襲する物語があった。蔡英文の物語は、逆境に面しても、決してぶれないことは大切で、かつ努力することは大切であると語っている。
2020年の総統選挙で817万票は「反浸透法案」は間違ってはいない、同性婚の合法化は間違っていない、年金改革は間違っていない、そして台湾は一独立主権国家であると言っている。国民と蔡英文はそれぞれの一票によって民主を守り、改革に後戻りはなく、民主はまた前へと進めたのである。
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