司馬遼太郎さんの『台湾紀行』にこんな記述があります。
・・・「・・・台湾は、三柱の」
と、(老台北は)いった。
「神様によって護られています。まず、観音さまです」
次いで、
「媽祖様」
ちょっと声を低めて、
「マリア様です」
と、いった。なんだか、万教台湾ニ帰ス、という観がないわけでもない。・・・
この『台湾紀行』のお話通り、台湾では観音信仰に代表される仏教、媽祖信仰に代表される道教、そしてマリア信仰はプロテスタントにはありませんがキリスト教が三大宗教であると言えるかと思います。
元旦にはそれぞれの宗教に合わせて、初詣をするわけですが、日本で仏教徒が神社へお参りするように、台湾でも仏教徒が道教の廟に行ったりします。
台北での初詣スポットトップ3は、『行天宮』という三国志の関羽公を祀る廟、『龍山寺』という観音さまを祀るお寺、『松山慈祐宮』という媽祖さまを祀る廟です。
とくに前者では元日に総統が『紅包(ホンバオ)』という赤い封筒に入ったお年玉を配るので、とにかくすごい人になります。
また本年は月末には選挙があるので、どのお寺も廟も政治家の人たちが選挙民に挨拶をするので大変な人波です。
台湾に住む時間が長くなると、このように小賢しい知識がついてきて、昼間行くと大変なことが分かっていますから、夕方5時半頃に初詣に向けて自宅を出発しました。
私が目指すのは西門町というところにある『台北天后宮』という媽祖さまを祀る廟です。トップ3に比べ小ぢんまりとしたよい廟で、地下鉄の西門駅からすぐという便利な場所にあります。
読者の方々は、この『媽祖さま』とは一体なんぞや、と言われるかもしれません。詳しい説明は避けますが、本年の紅白歌合戦の小林幸子さんの衣装を覚えていらっしゃいますか。
あれは、実は、台湾の媽祖さまをモチーフにしたものなんですよ!実際この衣装が評価されて、小林幸子さんは2010年の台湾観光親善大使に台湾政府から任命されていらっしゃいます。これは嘘のような本当の話です。
さて話は戻り『台北天后宮』に着くと、私の小賢しい知恵は見事に裏切られ人で一杯でした。元日参拝用の赤い蝋燭が一杯で、沢山の炎が揺れて幻想的な雰囲気です。
沢山の人と炎の隙間をくぐって、線香の束をもってお参りしていると日本語で私を呼ぶ声がします。驚いて振り返ると以前の台湾人クライアントでした。
彼女は毎年ここに旧暦の正月の2,3日に参拝しているのですが、今年は従兄弟が厄年のため今年はきちんと元日に参拝に来たとのことです。彼女は私に「いつもここに来るの?」と聞きました。私は
「ええ、ここにはときどき来ます。家からも近いし、日本の弘法さまもいらっしゃるので。」
と答えました。言い忘れましたが、ここ『台北天后宮』のあった場所は、日本統治時代には『弘法寺』と呼ばれ、弘法大師が祀られていました。戦後日本人が去った後に、日本人が壊した媽祖さまの廟と、弘法寺と合併してできたものです(台湾の人たちの心は広い!)。
そんなわけで、ここには、媽祖さま、関羽公、観音さま、弘法さまなど10体の神様が祀られています。
まさに万教台湾ニ帰ス、の感があります。
10体の神様のあるところをぐるぐる回って線香をあげてお参りすると、一種の良い運動です。
話は変わりますが、台湾の廟やお寺ではイケメンや美女の若者が少なくありません。何故かは分かりませんが、台湾の人たちがそれだけ信仰深いということかもしれません。
私の出会ったクライアントの綺麗なお姉さんも普段は飲んべえで、ここで出会ったことは正直意外でした(失礼!)。え、先方もそう思っているに違いない?それは私も否定しませんが、たまには廟やお寺で台湾の人の心に触れるのも良いことだと思いませんか。
左上写真: 『台北天后宮』正面
左下写真: 『台北天后宮』の赤い蝋燭
右写真: 『台北天后宮』の弘法さま
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訂正:本文において「台湾でも仏教徒が道教の廟に行ったりします。」と書きましたが、私の北京語の先生によると「仏教徒とは道教の廟に行かない」「道教徒は仏教のお寺に行く」が正しいとのことです。
台湾の仏教は最近(ここ30年間くらい)厳しくなっているようです。お詫びとともに訂正致します。T老師どうも有難うございました。
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我々日本人というのは、65年前の敗戦によって、歴史や伝統などを自ら否定しましたね。誰の言葉か忘れましたが、「歴史は未来を予言するのではなく、歴史を知ることによって現在がどういった時代かを理解するものだ」と。
返信削除台湾と言うところは、日本人よりも日本の過去のよいところを受け継いでいますね。もしかしたら、日本の間違った過去に対しても愛着すら感じているのかもしれない。日本で継続している戦後民主主義教育の弊害がないからでしょうね。
たから、台湾というのは哀愁が漂うのかも知れない。
新年快楽!
まさに仰られるとおりです。
返信削除「歴史は未来を予言するのではなく、歴史を知ることによって現在がどういった時代かを理解するものだ」
よい言葉ですね。
台湾の人たちは、過去日本がどんな良いことをしてどんな悪いことをしたのかをバランスよく理解し、良いところを今でもうまく受け継ぎ、かつ良いところも悪いところも含めて日本を愛してくれているのだと思います。
でも一方で日本は頼りにならない国であることも知っている。
そして現在の自分たちのおかれている複雑な立場もよく分かっている。
台湾が悲哀と哀愁に漂うのはそんなところから来ているのだと思います
新年快樂!