2010年2月16日火曜日

台湾映画 『海角七号/君想う、国境の南』




久しぶりにDVDで『海角七号』を見ました。台湾映画市場歴代第一位のヒット作で、台湾で上映当時には映画館はすごい人でした。

物語は2つの流れから成り立っています。1つは台湾の最南端の『恆春』と呼ばれる場所で、台北で成功せず帰郷した歌手の阿嘉(范逸臣)と、モデルとしてこれまた成功せずガイドや通訳をやっている日本人女性の友子(田中千絵)のラブストーリー。

もう1つの流れは敗戦直後台湾を離れなければならなくなった日本人教師(中孝介)が、台湾をはなれ日本へ向かう船内で、離ればなれになる恋人である自分の学生に宛てたラブレター。

1つの疑問はどうしてこの映画がこんなにもヒットしたかということです。

友人達にこの質問をすると皆口を揃えて、「映画の大部分が北京語ではなくて台湾語で、台湾語でのこのような大衆映画は今までなかったから。」と言います。

これまでの映画は北京語が主であったため、このような台湾語の映画は台湾の人たちの気持ちに深く訴えるのでしょう。

御存知の方々も多いとは思いますが、台湾の人口のおよそ70%が閩南人と呼ばれる明や清の時代に福建から渡ってきた人たちで、台湾語を話します(最近の都市部の若い人達はそうでもないですが)。

次は同時代に広東や福建から渡ってきた客家(ハッカ)人でおよそ15%です。この人たちはハッカ語を話します。この2種類の人たちを本省人と呼んでいます。次に、戦後に国民党政府とともに渡ってきた外省人と呼ばれる人たちが13%。最後にマレー・ポリネシア系の先住民は(台湾)原住民(日本統治時代の高砂族)と呼ばれ2%。九州より一回り小さいシマに多様な人々が住んでいるわけです。

けれども日本統治時代は日本語が公用語で、現在は北京語が公用語です。。。

また、もう1つの疑問は、この映画の監督である魏徳聖は40過ぎの若手であるにも関わらず、どうやって日本統治時代のラブストーリーを映画に盛り込んだかです。

これもとある友人に聞くと、「ああ、日本人の恋人と敗戦直後別れ離れになってしまった話は、台湾人なら誰でも小さい頃から聞いている」とのこと。この言葉を聞いた僕はちょっとした驚き、なんだか切ない気持ちになりました。

この映画で僕の心に残っているセリフは、日本人教師の恋人へ宛てた手紙の中にある

「君を捨てたのではなく、泣く泣く手放したということを」

という一文です。日本人教師の恋人への別れは、敗戦によってもたらせられた悲劇でした。

当時日本人は泣く泣く台湾を去り、そして、今でも台湾の友人たちから聞くことがあるのですが、台湾人は日本人がなぜ自分を捨てたのかと哀怨の気持ちに溢れたいたのでしょう。

ここで畏れ多いですが、また、司馬遼太郎さんの『台湾紀行』から引用させて頂きます。

・・・ 宴が終るころ、昭昭さんが、不意に、
「日本はなぜ台湾をお捨てになったのですか」
と、ゆっくりといった。美人だけに、怨ずるように、ただならぬ気配がした。私は意味もなくどぎまぎした。

私は、日本統治時代の日本が、国家の実力以上に台湾経営につくしたことはみとめている。
むろん植民地支配が国家悪の最たるものということが、わかった上でのことである。
さらに、日本がみずからの意志で捨てたのでなく、・・・ついに十五年間も戦争をしたすえに台湾を捨てざるをえなかった。
ポツダム宣言受諾(1945年)によってすてさせられたのである。昭昭さんもそのことはわかっている。
・・・ が、こういう家族ぐるみのお招ばれの席上で、にわかに現代史の話を持ちだすのは無粋と思い、私はだまっていた。

ところが、もう一度、昭昭さんは、
「日本はなぜ台湾をおすてになったのですか」
と、大きな瞳を据えていわれた。・・・彼女の半生をひとことでいえば、水中の玉のように瑩として光る操なのである。こういう人の前では、答えに窮したほうがいいとおもった。・・・

日本は敗戦から、台湾は中華民国になってから既に60余年の年月が流れました。

この年月の中で、一時期は日本はジャパン・アズ・ナンバー1、台湾はダントツの外貨準備高世界一の地位をもって経済発展したのも束の間、今は昔の感があります。両国は今、なんとも抜け難い袋小路に面してしまっているように感じるのは私だけでしょうか。

日本は戦前に自分たちがしたことに対して、学校教育で植え付けられた罪悪感から目をつむるのではなく、自ら考え、情報を取捨選択し、客観的にバランスのとれた歴史観をもってからこそ、よい未来の青写真を描くことができるかと思います。

そのきっかけを得るためにも、日本の人達には是非台湾へ、観光でもよいですから、来て頂き、自分の目や耳で『海角七番』の歴史背景を見聞して頂ければよいのではないかと思います。

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後半堅いことを言ってすみません。。。

兎にも角にも、この台湾映画 『海角七号/君想う、国境の南』は非常に面白くかつ感動の映画で、東京でも上映延期が決まったとのことです。

2/19(金)までは「シネスイッチ銀座」、2/20(土)~3/5(金)は「シネマート六本木」にて上映予定。地方でも3または4月まで上映しています。

詳しくは、http://www.kaikaku7.jp/ をご覧下さい。

台湾に興味をお持ちの方もそうでない方も是非ご覧になって下さい。本当にオススメです!

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2 件のコメント:

  1. 「海角七号」、海岸通り七丁目。台湾で上映された直後にYouTubeで見ました。台湾の若い監督は、小津安二郎の影響を受けているのかも知れませんね。

    だから「切なさ」を感じる。ハリウッドだとクロサワになってしまう、どう転んでも小津にはならない。このありも、台湾と日本の価値観が近いことを物語っているのか?

    これは、日本国内でも言えることで、東京と地方都市の差。つまり、日本の文化的な価値は地方都市にあり、東京なんて(私は東京に住んでいますが)、文化も消え去ったどこの国だか分からない所になっているのではないでしょうか?

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  2. このコメントを拝見するまで全く気づきませんでしたが、そうですね、まさに小津映画の味ですね!

    たまたま日本の映画のサイトで、台湾の若手監督との対談が載っているのを見つけましたが、そこで台湾映画と小津映画の関係が言及されています。http://www.eigakanshugi.com/2502/3

    個人的な考えですが、小津の影響があるのは、台湾に日本との共通の価値観があり、それを受け入れる受け皿があったからだと想像します。

    日本で文化的な価値は東京ではなく、地方都市にあるのは賛成です。私の日本の原風景は今も北陸と京都であり、東京からはそのようなものを見つけていません。

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本ブログの概要

起業、大学院での活動、在台日本人の生活等を通して色々な角度から見た台湾について、そして台湾から見た日本について、皆さんとお話していきたいと思っています。