2010年6月8日火曜日

リップンチェンシン

先週不覚にも季節外れのインフルエンザで3日間ほど寝込んでしまいました。

あとで人から聞いたところによると、最近の台湾ではなんでも豚インフルエンザではないですが、変種のインフルエンザが出てきているという噂があるらしいですね。

私の大学院の同級生も今回インフルエンザが元で気管支炎になったり、子供がインフルエンザをこじらせてかれこれ2週間調子が悪いなどの話を聞きました。

やはり人間、どこにいようが健康第一ですよね。

私自身は、最近日本の台湾統治時代に関する書物を見過ぎていたのか、自分の体の調子が悪くなり始めたときに、ふと考えました。

「こんな季節にインフルエンザでもないだろうし、もしかして台湾の風土病に罹った?」

今考えると明らかに考え過ぎで滑稽なのですが、こうして早めに病院へ行ったのがケガの功名で大事に至らず、2日目の夜には少しずつ動くことが出来るようになりました。

こうして仕事はさすがに無理でしたが、ゆっくりと読書を楽しむ余裕が出てきたのです。

さて、まず病床で最初に開いた本は、最近途中まで読んでいた古川勝三さんの『台湾を愛した日本人~土木技師八田與一の生涯』でした。

古川さんは昔高雄の日本人学校の先生をされていて、台湾で八田與一さんの話を聞き感動し、その生きざまを日本人に知ってもらわなければならないと、2年かけて調査し、この350ページ近くの大作を書かれたそうです。

この本を読み八田與一さんの偉業にまたもしつこく感動を新たにしたのですが、もう一つ別の角度から心に残ったのは、古川さんが書かれたあとがきの一部です。

・・・「あなたは日本人だから、日本精神をもっていますよね」と台湾人に聞かれたことがある。「日本精神?それはどういうことですか」と聞き返すと「日本精神はね、『嘘をつかない』『不正なお金は受け取らない』『失敗しても他人のせいにしない』『与えられた仕事に最善を尽くす』この四つですよ。日本は良い教育をしてくれました。今日の台湾の発展は、この日本精神のおかげですよ」と語った。話を聞いて、返す言葉を失った。・・・

ここで、蔡焜燦さんの『台湾人と日本精神(リップンチェンシン)』を数年ぶりに開きました。蔡焜燦さんは、台湾紀行で司馬遼太郎さんのガイド役「老台北」として登場されています。

なお「リップンチェンシン」は日本精神の台湾語での発音です。

・・・台湾では、いまでも「日本精神」=リップンチェンシンという言葉が、「勤勉で正直で約束を守る」という褒め言葉として使われている。・・・

・・・台湾人がもっとも尊ぶ日本統治時代の遺産は、ダムや鉄道など物質的なものではなく、「公」を顧みる道徳教育など精神的遺産なのである。こうした遺産は、台湾の発展の基盤となり、またこれからも語り継がれてゆくことだろう。・・・

これらの記述は「古きよき時代の日本人」の話と言えばそれまでなのかもしれません。

ただそれよりも私が今回感じたのは、これらの日本精神(リップンチェンシン)の説明はどのような一流会社のコアバリュー(価値基準)の説明よりも、単純ですが見事なまでに分かりやすく、かつDOs(何をやる)とDO NOTs(何をやらない)が極めて明らかで、私は今更ながら感心させられたのです。

そして日本の伝統的価値観が台湾の人たちが評価してくれていることは、日本人として嬉しく、しかし日本でも台湾でもこのような価値観が薄れていくことに寂しさを覚えずにはいられません。

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床から起きて日本のニュースをインターネットで見ると、いつの間にやら日本の首相は辞任していて、そして今新しい内閣の報道がされています。

ここでふと目に留まったのは文部科学相(再任)とあり、プロフィールの「文教行政は専門分野ではなかったが、民主党の目玉政策の高校無償化を実現」という紹介文です。

リップンチェンシンのことを色々と考えた後に見る「無償化」という文字は、恨めしいくらい安直で薄っぺらく、何の魂も入っていない空虚なものにしか映らないのです。

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本ブログの概要

起業、大学院での活動、在台日本人の生活等を通して色々な角度から見た台湾について、そして台湾から見た日本について、皆さんとお話していきたいと思っています。